NFTインサイトレポート③線型発展モデルから統合発展モデルへ ─ 新Web社会へのうねり ─
Web社会の進展をみると、NFTを用いたマーケティングの展開、ブロックチェーン証明の活用、ノーコードアプリの普及拡大と、高度情報技術の社会実装が進んでいます。「技術」「社会」「人間」という3つの歯車が相互に噛み合わせを検証、確認、前進させながらビジネス、地域活性化、ライフスタイル領域で模索が重ねられ、新しいダイナミズムが生まれつつあります。このレポートでは「線型発展モデルから統合発展モデルへ」という視点からそうしたダイナミズムの意味と可能性を読み解いていきます。
2024年11月20日、発表した「NFTインサイトレポート① 「第2幕」を迎えたNFT/トークン経済」において、デジタルアートNFTのブームが終焉した後、NFTの社会普及が本格化する「第2幕」が開けたと分析し、その特徴として次の6点を上げました。
- Sony、NTT等、大手企業による基盤技術開発と社会インフラの造成
- 大手企業とスタートアップとの提携
- リアルなもの・サービスに紐付いた多様なNFT商品の開発
- 市場開拓、社会定着の契機となるUI/UXの開発進展
- 官民の様々な産業分野における社会実証実験の広がり
- 「アプリマーケ3.0」「ノーコード革命」と連動のきざし
こうした動きはさらに加速され、技術の複合化をつうじ、情報社会の新しいあり方が模索されています。 本レポートではWeb社会の進化は、Web2.0段階を卒業しWeb3.0 段階に移行しジャンプするという線型的な発展ではなく、ビジネスや地域の現場ニーズに対応しながら、新旧技術を融合しつつ非線型な発展をたどっていることを見ていきます。現在進行形のWeb社会はポストWeb2.0でもなければWeb2.0の終焉でもありません。Web2.0とWeb3.0の多様な技術が並行発展、相互融合、複合進化している姿として捉えていきたいと思います。
伝えたいこと
視点を変えると(線型発展→統合発展)、Web社会の景色が変わります。
Ⅰ.線型発展モデルから統合発展モデルへ
線型発展モデルと統合発展モデルの相違は図のとおりです。
Web2.0技術は、ユーザビリティの高さ、開発速度の速さ、コストパフォーマンスの良さという強みを持っています。ノーコード技術はこれらの特徴を極限まで押し進めたものであり、専門的知識を持たない地域住民や中小企業にも、デジタルソリューションの道をひらいています。また、Web2.0のプラットフォーム型アーキテクチャは、エコシステムの構築と規模経済性の実現に優れ、地域で多様なステークホルダーの参加を促進し、ネットワーク効果による価値創造が可能になります。
他方、Web3.0は、分散性、透明性(非改ざん性)、自律性という特性をもっています。ブロックチェーンの特徴である非改ざん性は、真贋証明、品質管理、カーボンクレジット証明などの分野で、従来のシステムでは実現困難な信頼性を提供することが可能です。ブロックチェーンをトークン化したNFTは、デジタル資産の所有権証明を通じて、新たな価値創造と流通の仕組みを提供し、ブランドとコミュニティの新たな関係性構築に貢献します。マーケティングツールとしてのNFTの可能性に光があてられていく背景や理由には、こうしたNFTならではの技術特性があります。

統合発展モデルのポイントはWeb2.0の強みとWeb3.0の特性の融合にあります。モデルの特徴を「統合発展のイメージ」「統合発展の方向性」「技術の社会実装」「技術統合の方法」の4つの視点で整理することが可能です。技術至上主義に陥ることなく「目的は社会課題の解決」という点をおさえることと、「4層アーキテクチャーによるハイブリッド化」(後述)が重要です。

Ⅱ.統合発展、3つの契機
Web2.0の強みとWeb3.0の特性の融合は、それぞれの技術的な特徴をいかした必然的なプロセスです。「統合発展モデル」は次の3つの変化が複合的に進むことで、Web3.0新技術のリアル社会への浸透、実装が現実的なものになっていきます。
- マーケティングツールとしてのNFT活用
- SaaS型のNFT活用支援サービスの供用活発化
- B2Cサービスに向けたノーコードアプリとの連携
(1)マーケティングツールとしてのNFT
マーケティングツールとしてNFTを活用していくという動きは2024年に大手企業が先鞭をつけました。事例としてはTOPPANがNFT/トークンを活用した「推し活」ビジネスを推進する事業を開始し、三井物産が同じく「推し活」を記録・可視化し、特典を提供するサービスの事業に乗り出しました。

2025年にはカルビー(NFTチップスキャンペーン)、カラダノート(子育て用品マーケティング)、ハウス食品(万博でのキャンペーン)、東京ドーム(イベント思い出のNFT化でコミュニケーション導線づくり)、博報堂(「界隈」発想を用いたマーケティング手法開発)、ロイヤリティ·マーケティング(PontaポイントNFTでお出かけ人流創出)、SBINFTマーケット(NFT売買でPontaがたまる仕組みづくり)など、NFTをマーケティングツールとして使う事業が広がりをみせています。
いずれも、第1幕の主流であったNFTデジタルアートを単独で売るという手法にかえ、食品、生活財、イベント、まちづくり、ポイントビジネス等、多様な領域との連携が進んでいます。そこではNFT、ブロックチェーンというデジタル技術そのものが前面でアピールされることが少なくなり、日常的なキャラクターやトークンのイメージを前面に押し出す形が大きな特徴となっています。
(2)SaaS型のNFT活用支援サービス
Web3先進技術の利活用が、非情報系企業、中小企業、行政など社会各層に浸透していくためには技術的なノウハウ不足、心理的な不安、ユーザビリティの課題をクリアしてくれるサービス提供が重要になってきます。そうしたなかで2025年にNFT活用を支援するSaaS型のB2Bサービスの提供が相次いることが注目されます。
とりわけ、ソニー(ブロックチェーンサービス「ソニューム」の供用開始)、NTTデータ(社会貢献プラットフォーム「folwald」でのAPI形式でのNFT発行サービス実現)、SBINFT(ロイヤルカスタマーの可視化から獲得までをワンストップ実現するプラットフォーム「SBINFT Mits」のサービス開始)という大手企業の動きが注目されます。また、Web3.0事業に必要なNFT生成·管理をSaaSで完結させるサービスを手がけるスタートアップConnectiveの展開も要注目です。 NOT A HOTELやSake Worldも不動産事業、日本酒におけるこれまでのNFT事業の実績をもとに、事業拡大と新領域への展開を本格化しています。

(3)B2Cサービスに向けたノーコードアプリとの連携
Web3.0は分散型自律社会の実現という旗印のもと、エンドユーザーへの権限移譲と、社会参加の機会を広げていくという理念を掲げています。高度情報技術が社会各層に浸透し、生活の様々なレベルに影響を及ぼしていくなかで、「DX民主化」すなわち「ラスト1メートルのDX」がこれから本格化していくことが確実です。
そのプロセスの鍵を握るは携帯ベースの「アプリ」です。個々人が手のひらで自由に情報を操作·活用しながら、課題解決を図り、新たな体験価値を味わい、コミュニケーションを創造していくことが必須要件となっています。DX民主化の展開と軌を一にするかたちで、NFT「第2幕」の推進要因としてアプリマーケ3.0が浮上しています。「アプリマーケ3.0」にとって欠かせないのが、低コストで手軽に、そして自由度高いアプリ開発を可能にする「ノーコード」という手法です。
ノーコードアプリの導入・活用が今、流通業界で意欲的に進められています。例えば明太子の「ふくや」では、リピーターを増やすため店頭でアプリのダウンロードを促し、会員登録やECサイトへの誘導、再購入につなげる仕組みを構築しています。また仏壇・仏具業界最大手の「はせがわ」では仏壇や墓石は「売り切り型」になりやすく、リピート購入が少ないという課題の解決に向け、顧客との継続的な関係を築くために、ノーコードアプリの活用に踏み切りました。ノーコードツールの導入により、IT部門に頼らず現場スタッフが自分たちでアプリの機能追加やキャンペーン設定を行っています。 <Web3.0×ノーコードアプリ>という掛け算の展開はこれからが本番です。
Ⅲ.4層のアーキテクチャー
以上で見てきた「3つの契機」をいかした統合発展モデルを実社会での実装を円滑に進めていくために求められているのが「4層のアーキテクチャー」の構築・活用です。4層の連携でハイブリッドなシステムを実現していくことが欠かせません。
第1の層は「ユーザー体験層」です。ここで大事なのはWeb2.0の技術(ノーコード)を活用した直感的なインターフェースとユーザーエクスペリエンス(UX)の実現です。「手のひら」に広がるアプリ世界がユーザーに支持されるかどうか、「DX民主化」「ラスト1メートルのDX」にとって決定的に重要です。
第2の層は「アプリ層」です。社会課題とそれを解決するためのビジネスモデルを設計仕様に落とし込み、使いやすいアプリとして開発、提供していく層です。Web2.0の技術がメインとなりますが、必要に応じてブロックチェーンやNFTを活用した機能デザインが必要となってきます。
第3の層は「データ管理層」です。商品情報、サービス情報、ユーザー情報、コミュニティ情報等をデータとして管理していくバックヤードです。Web3.0の進展によって、従来のクラウド上のデータベースとブロックチェーン·データベースの複合利用が今後見込まれます。
第4の層は「データ接続層」です。kintoneやsalesforceなどの外部サービス、Googleマップ、LINE、ChatGPT等の外部サービスとの連携をサポートする機能です。今後、目的に応じてカスタマイズされたアプリを実現していく上で欠かせない層です。API(アプリケーション·プログラム·インターフェース)を用い、アプリケーション同士のスムースな接続ができるかどうか、プラットフォームサービスの真価が問われる部分です。なお、MikoSeaが提供しているClickでは多様な外部サービス、外部データとの連携がサポートされています。

Ⅳ.地方創成2.0 ─ 統合発展モデルの実践展開
Web2.0とWeb3.0が融合した統合発展モデルが大手企業において経験蓄積されつつあることを見てきました。一方で分散、自律、協調を理念とする Web3.0の新技術は地方での展開は“これから”という状況ですが、未開の可能性を秘めています。下の事例にみるように、分散型自律組織(DAO)と共同の地域づくり、サステナブルツーリズムの事業化、教育の変革、防災のソフトインフラ整備等、いずれも「地域」を舞台とした実践展開が求められています。
① 社会実験に取り組む地方創生DAO:おさなかだお長崎×渋谷
DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)は2024年4月からは、日本でも合同会社型DAOの設立が可能となったことから、地方創成の一翼を担う組織としてDAOの活動が活発化しています。その一つ、おさかなだお長崎は「長崎のうまいサカナの未来をつくる」をテーマに立ち上がったものです。おさかなだお長崎では関係人口の増加にとどまらず、NFT保有者が地域漁業政策の意思決定に参加できる仕組みを構築。長崎の地場事業者と協働するなど、持続的な地域経営の担い手になっていくという好循環が生まれています。
また、東急不動産グループ等が推進している地方創生のための実証実験「Local web3 lab.@渋谷」の第一弾ローカルDAOとして採択され、長崎の水産業について学ぶイベントを開催するなど、地域間連携も進めています。オンラインで生まれた縁をリアルな交流へと昇華させる取り組みは、大都市の活力を地方におけるまちづくりに接続する新たな試みとして注目されます。
② 観光における新たな価値創造:EVタクシー×NFTスタンプラリー
沖縄本島南部の本部町ではEVタクシーを活用したインバウンド向けサステナブルツーリズム「Motobu Story Quest」の実証事業が行われています。「海」「文化」「季節」を探求するための3種類のモデルコースを用意し、環境志向の高いインバウンド層へのニーズを取り込み、サステナブルツーリズムを推進することを目指しています。 利用者は、地元の人がおすすめする穴場の観光スポットへ足を運ぶ度にNFTスタンプを獲得し、“旅の思い出”としてオリジナルアプリ内に貯めることが可能です。NFTスタンプラリーをきっかけに、沖縄県に来るインバウンド客のリピートを図っていこうというものです。
住友商事、本部町、第一交通グループ(タクシー)、東武トップツアーズの連携事業です。利用者にNFTで観光地の詳細情報を提供するとともに、サステイナブルツーリズムの価値体験を新たな観光づくりにつなげていこうという試みとして注目されます。
③ 参加共創型プラットフォームで教育・文化創造:NFT×AI×デジタル図書館
日本を代表する経営コンサルタントである神田昌典氏は「UMU」をベースにしたAI学習プラットフォームを国内2.2万社以上に提供してきた実績をもっています。神田氏はその実績をもとに、2025年1月に「デジタル図書館 PABLOS」を立ち上げ、1,600校を超える公教育の現場に無償で提供していく事業をスタートさせました。その推進力となっているのが、NFTを活用した社会課題解決型の教育支援事業です。「デジタル図書館 PABLOS」にはMikoSea株式会社の協力で、これまで3次にわたってNFTメンバーを募り、合計463人から4,120万円の資金を調達。この資金を元に公教育現場での探究学習プロジェクトや地域の教育支援に充当しつつ、「未来の教育」を創造していく取り組みが始まりました。教育における支援や投資の新しい形は、教育は国や学校だけのものではなく、社会全体で担う「共同の責任」と捉え、誰もが教育の質向上に貢献することが可能になりました。地域や学校の枠を超えた学びのネットワークによって、Web3.0活用で教育の民主化・オープン化がすすみ、社会の課題解決が前進することが期待されます。
④「能登半島避難所情報共有アプリ」の教訓:現場主導×情報共有×リアルタイム
地震や津波、台風などの自然災害に強い国づくり・地域づくりを行い、大災害が発生しても人命保護・被害の最小化・経済社会の維持・迅速な復旧復興ができるよう目指す取り組みが「国土強靱化法」(2013年施行)のもと推進されています。しかし、能登半島地震発生時には、被災状況及び避難所の情報が錯綜し、大きな混乱を来しました。その中で活躍したのが、地震発生後4日目にリリースされた「能登半島避難所情報共有アプリ」です。 避難所のトイレ、水道、電気、救援物資の状況が一目でわかる携帯アプリです。避難所に関する情報をユーザー自らがリアルタイムに追加・変更し、互いにサポートしあう機動的なアプリ情報ネットワークは支持を集め、現場で救助活動を行うDMATが活用する状況も生まれました。
SNS感覚で広がっていった避難所アプリは「徹底した現場主導」「草の根の情報共有」「リアルタイム更新」が“うり”でした。MikoSea株式会社のサポートを受け、ノーコードClickによってボランティアが手がけたこのアプリは“アジャイル開発”の典型で、官製アプリにはない機動性を発揮しました。防災と災害対応が国をあげた課題となるなか、老若男女の壁を超えて情報リテラシーを磨き、アプリへの“なれ”を平時から実践的に身につけておくことが重要です。
まとめ
政府(内閣府)がすすめる「地方創成2.0」の施策によって統合発展モデルの実践展開に拍車がかかることが期待されます。「地方創成2.0 基本構想」によると、国は地方創成2.0に向けた基盤づくりとして「GX・DXインフラの整備を進め、NFTを含むWeb3.0など急速に進化するデジタル・新技術を最大限活用する」としています。また、関係人口の量的拡大・質的向上をすすめる施策として「ふるさと住民登録制度」を創設し、スマホでも登録可能なアプリの開発・普及を図るとしています。
NFTやブロックチェーンなどWeb3.0の新技術と、ノーコードを軸としたアプリを統合展開は、今後、地域に新結合・新活力をもたらし、「国のかたち」を変えていく可能性を宿しています。