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NFTインサイトレポート②観光イノベーションとNFT2.0

NFTインサイトレポート①において、「NFTが第2幕(NFT2.0)としてリアルなもの、リアルなサービスに紐付くかたちで活用領域を広げています」と指摘しました。NFT2.0の活用領域として期待されるのが、観光サービス分野です。

伝えたいこと

NFT第2幕(NFT2.0)と歩調を合わせた観光イノベーションの展開に要注目。

EXPO2025デジタルウォレット

NFTインサイトレポート①において、「NFTが第2幕(NFT2.0)としてリアルなもの、リアルなサービスに紐付くかたちで活用領域を広げています」と指摘しました。NFT2.0の活用領域として期待されるのが、観光サービス分野です。観光サービスにおける新たな体験創出、付加価値提案、そして地方の観光プロモーション、関係人口呼び込み手法としてNFTへの注目が高まっています。

その一つとして期待を集めているのがこの4月から開催される大阪·関西万博です。万博ではキャッシュレス理解促進の一環としてアプリサービス「EXPO2025デジタルウォレット」が使用されることが決まっています。そして開幕に先立ち、機運醸成ということでウォレットを使った事業連携サービスが大阪·関西エリアで展開されてきたというわけです(表)。

2025年大阪・関西万博が日本発の<観光×NFT>を観光産業における課題解決の方向性として世界に示す絶好の機会となりそうです。

EXPO2025に向けたこうした取り組みは、<観光×NFT>の貴重な地域実証事業であり、NFT社会実装を後押ししていくことが期待されています。

期待の背景には、これからの日本(経済)における観光産業の果たす役割の大きさがあります。インバウンド需要(外貨)の呼込み、地方創生への貢献、産業連携のハブ、日本の魅力発信と国際交流の4つです。

これらの役割を踏まえ、本レポートでは、NFTを活用した観光事業戦略意義と可能性、課題をインサイトしていくことにします。

日本の観光、過去最高を記録

観光白書2023によるとインバウンドを含めた観光関連産業の付加価値総額(観光GDP)は2020年時点で9.9兆円、産業全体に占める比率は1.9%なっています。主要7カ国(G7)平均が4.0%なので、先進主要国とくらべ観光産業の立ち後れは否めません。そこで政府は、2023〜2025年度の観光立国推進基本計画(第4次)の目標として、①訪日外国人旅行消費額:早期5兆円達成 ②訪日外国人旅行者数:2025年までに3200万人(2019年水準)超えを掲げ、インバウンドの地方誘客と消費拡大をめざしています。

円安効果もあり、2023年訪日外国人旅行者数は、約2,507万人とコロナ前と比べ79%の回復(2024年は3,310人の見込み)、訪日外国人旅行消費額は5兆3,065億円(2019年比10.2%増)と計画を上回り、過去最高となることが確実です。

観光産業のかかえる課題と新たな施策

しかし、「過去最高」というとメデタシメデタシとなるかというとそうではありません。観光産業については次のような構造的課題が重ねて指摘され、今も根源的課題の解決には未だ「道遠し」の状況です。

①大都市圏と地方の格差是正、②高付加価値旅行の促進、③多様なニーズへの対応、④長期滞在の促進、⑤持続可能な観光実現、⑥人材不足と生産性向上の5つです。

けれども課題の多さは裏返すと伸び代とイノベーションの余地が大きいということを意味しています。観光イノベーションに向け、NFTの役割が見込めるのは、①大都市圏と地方の格差是正、②高付加価値旅行の促進、⑤持続可能な観光実現の3課題です。

(1)地域連携で広域集客

日本へのインバウンド観光は5割が三大都市圏に集中し、2019年対比で三大都市圏集中度が高まりをみせ(図)、オーバーツーリズム問題を深刻なものにしています。ただしアジアの旅行者に限ると、訪日リピーターの割合が増えるとともに、地方部のみを訪問する割合が高まっています。他方、欧州や豪等の旅行者は、三大都市圏から次第に地方部への広がりをみせているものの、三大都市圏プラス地方部という旅行パターンが主流であり、地方への一層の誘客が必要となっています。国の施策でも「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進」が大きく掲げられています。

国籍・地域別訪問パターンの構成割合(「観光白書2024」)

だし、観光集客にはイベント開催、広報、ノウハウ、施設整備など、多くの投資が必要で、地域や自治体単独での集客の取り組みには限界があります。そこで浮上しているのが、「地域連携で広域集客」という視点です。先の大阪·関西万博に関連した取り組みは、集客力を事業連携サービスとして大阪·関西エリア全体に広域分散させていく手法を事前テストしてみようというものです。

一方、地域連携·広域集客の手法として「デジタルスタンプ/御朱印」が様々な地域で取り組まれ、新しい旅のスタイル(楽しみ方)として広がりつつあります。こうした展開は、「四国お遍路(四国八十八箇所巡礼)」やアニメや漫画作品を起点とした地方への「聖地巡礼」ブームとの文化的つながりを読み取ることができ、興味深いものがあります。

(2)高付加価値旅行の造成例   〜「記憶」に残る旅づくり〜

現代観光はかつての物見遊山·もの消費型から体験·こと消費型に大きくシフトし、忘れられない「エピソード」や人生の「記憶」につながる付加価値との遭遇が求められています。価値の源泉となるのは地域固有の文化、“特別感”や“限定感”、“いま·ここ”の至福感です。新たな価値をNFTで紐付けていくことで、その価値を理解する観光客/ツーリストに届け、観光体験として価値実現していくというものです。

2024年に入り、NFTを活用した高付加価値の造成が多様化しています。下記の事例にあるように、それらは地方圏での取り組みが多く、地方誘客促進と経済効果創出につながっています。

東急ヒラフスキー場「ニセコパウダートークン」(2022年)

販売:「PLT Place」「αU market」

  • スキー場のアーリーエントリー権(対象のリフト開場時間よりも前に入場し、並ばずにその日誰よりも早く滑ることができる・ファーストトラック”優先提供)
  • レストラン「キングベル」の優先座席利用権
  • 地元カクテルバー「TOSHIRO‘S BAR」予約権
  • コンドミニアムホテル「綾ニセコ」宿泊予約権

洞爺湖花火NFT(2024年発売)

販売:OKYO NFT プロデュース:博報堂 日本航空

  • 体験プログラム提供:洞爺湖温泉観光協会
  • 販売価格:¥33,000(税別)

糸島マスエワイナリーNFT(2024年発売)

販売:MikoSea

  • 「地魚と楽しむワイン造り」を実現するためのNFT
  • 飲食・宿泊施設付きワイナリー
  • 販売価格:33,000円または33万円
  • 体験型特典サービス特典(ワイン購入割引券・放課後じざかな倶楽部参加権 ・宿泊棟1部屋(2人まで)無料利用権、等)

宇和島城 特別体験NFT(2024年)

販売:αU market

  • 宇和島城にまつわる5つの体験を用意(夜間開城ガイド付きツアー・お城インスタグラマーの現地ツアー参加権・天赦園でのお茶会・甲冑着付け体験・特別甲冑を着用したお城まつりへの参加権、等)
  • 販売価格:1,980円〜10万円

(3)持続可能な観光地域づくり

観光地を活用した持続可能な地域づくりは、インバウンド観光客の急増を背景に地域施策としての重要性を増し、観光の新たな意義として注目を集めています。

その究極の狙いは、観光客の受入れと住民の生活の質の確保を両立させ、観光収益を地域社会に還元する好循環を構築していくことにあります。けれどもそれには複合的で息の長い取り組みが不可避です。「地域連携·広域集客」「高付加価値旅行の造成」など全ての観光施策が持続可能性に必要な要素と言って過言ではありません。

地域発展の究極のゴールである持続可能性の必要条件を整理すると表のようになります。それらのいずれの取り組みにも、デジタル技術が必要とされ、目的に応じNFTの活用が今後、検討課題にのぼってくると考えられます。

Donate & Go〜寄付と贈与の循環がつくりだす地域経済へ

持続可能な観光地づくりに向けたサービス·プラットフォーム「Donate & Go」の第一弾事業が2024年11月、京都市でスタートしました。倶知安(ニセコ)観光協会、大阪ガス、日本航空、ギフティの連携によるプラットフォームです。旅行客が訪れた地域に寄付をし、お礼として体感型のご当地電子ギフトを受け取る仕組みです。訪日客による地域文化・自然環境・景観への理解や共感を促進し、寄付を通じて、持続可能な地域づくり・観光に関わる関係人口を増やし、観光資源保全をはじめ地域課題の解決を目指すというものです。当初は電子ギフト券としてスタートしますが、今後は、NFT、地域オリジナルグッズなど体感型のご当地ギフトを拡充していくとのことです。

今後は持続可能な観光地づくりを推進していくプラットフォーム事業が「ふるさと納税」「旅先納税」などの制度やNFT等の情報技術を活用し、様々に展開されていくことが期待されます。

「観光イノベーションとNFT2.0」は、これからが本番です。

「Donate & Go」の実施イメージ

NFTインサイトレポート②観光イノベーションとNFT2.0.pdf https://drive.google.com/file/d/1WOe63j-vIE_RQb9Yz9syY1KlxtsOicQS/view?usp=sharing
NFTインサイトレポート②観光イノベーションとNFT2.0.pdf

まとめ

「観光イノベーションとNFT2.0」は、これからが本番です。

MikoSea Curator - Sakaguchi
著者:MikoSea Curator - Sakaguchi

東京大学工学研究科都市工学専攻を修了の後、公益財団法人九州経済調査協会や九州大学において長年、地域調査や産業政策・地域政策の立案に従事するとともに、数多くのまちづくりに参画している。