【DX】NFTとDXとWeb3
NFTはデジタル及びインターネットによる社会変容という大きな潮流と関連しています。DXとWeb3が社会経済活性化の鍵をにぎるという期待が高まっています。しかし、DXとWeb3、そしてWeb3の主役の一つであるNFTの役割と本質について、共通理解にはまだ遠いように思われます。NFTとDXをつなぐ視点を確認しておきたいと思います。DXという大きな課題のもとでNFTをどう位置付けるか、NFTの利用推進がDXにどのような影響を及ぼすのか ─ 。
伝えたいことフィジタルとDAOの視点によって、DXからWeb3にいたる展開の全体像が見えてくる。
ストルターマン教授の問題提起によって始まったDXムーブメント。重要なポイントは、①生活全体のなかでデジタル情報技術の意義をとらえる、②美的体験(aesthetic experience)のもたらす価値を中心にデジタル技術の役割と可能性を考える、③生活や組織の継続的な変容、の3点です。そこにフィジタルとDAOの思想的な意義があります。
DXの定義と思想|ストルターマン教授
全てのものが繋がる世界
DXをめぐる議論とムーブメントはスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に発表した論文「情報技術と豊かな生活」が出発点となっています。その論文で教授はDX(Digital Transformation デジタル変容)を「DXは人々の生活のあらゆる側面に、デジタル技術が引き起こし、影響を与える変化のこと」と定義しています。
また、こんにち情報技術は生活のあらゆる領域に存在していることをうけ、DXを情報技術だけでなく、生活全体の一部として考えることが大切だと述べています。そして「全てのものが繋がっている世界へ導く」をDXの第一ポイントと述べています。
美的体験がもたらす価値
第二のポイントは、「美的体験(aesthetic experience)のもたらす価値を中心にデジタル技術の役割と可能性を考える」というものです。
「美的体験こそが人々の良い生活との関連を理解するための手段となり得る」というのがその理由です。美的体験の意味は、デジタル技術によって物理的な世界(フィジカル)と感覚的・心理的(メンタル)な世界が融合し、デジタル世界が現実社会の一部として埋め込まれていく。
結果として、デジタル技術に支えられるかたちでワクワク、共感、参加、共同という美的体験に満ちた生活が構成されていく・・と理解していくことが重要です。
生活や組織の継続的な変容
第三のポイントは、DXを進めていくために、情報技術を上から押しつけたり、盲目的な受け入れを求めたりするのではなく、「情報技術がわれわれの生活や組織に溶け込み、継続的な変容またらす方法が大切である」とストルターマン教授は主張します。
DXの推進にとってデジタルリテララシーやスキルを向上させる教育プログラムの重要性につながります。
NFTとDXとの接点
「情報技術による我々の生活の継続的な変容(transformation)」というDXの定義や意味づけそのものに、NFTとDXをつなぐ接点が埋め込まれています。
フィジタル
ストルターマン教授のDXの意味づけにおいて「美的価値」が中心的コンセプトとされ、物理的な世界(フィジカル)と心理的(メンタル)な世界がデジタル融合し、現実社会に織り込まれていくと述べられています。これはまさに、物と心とデジタルが融合した「フィジタル」の世界を価値化し、体験として広めようというNFT戦略とぴったり重なります。
ユーザーサイドに喚起される共感、応援、参加、共同という気持ちや“つながり”の意識、“本物”にふれる喜びを社会で広めていこうというNFTプロジェクトの取り組みは、DXの価値志向とオーバーラップするものです。
DAOの展開
デジタル技術によって「全てのものが繋がっている世界へ導く」というDXの方向性は、NFTを活用したDAO(自律分散組織)の展開という問題意識と重なります。Web3のインターネット空間において分散的=非中央集権的という志向性をもって様々なプラットフォームが展開されていますが、いずれも人と人、人と資金、人と情報、人とプロジェクト、人とコミュニティとの関係性を変えつつあります。全てのものが繋がると同時に、生き方、働き方、チームや組織のつくり方の変革が始まっています。
NFT活用とDAO展開は「美的経験を中心とした豊かな生活」というDXビジョンのもとで、生活と社会のトランスフォーメーション(変容)を推進する原動力を生み出します。
「蛻変」に学ぶ
「蛻変」という用語は、昆虫類や爬虫類などが、成長のため古くなった外皮を脱ぎ捨てることを意味します。セミでは卵が幼虫になり、サナギになり、羽化して成虫になっていきます。この言葉は、人生や組織のありようを、環境変化に適応して柔軟に変えることにも通底します。古い殻を脱皮しながら、生命体が環境にあわせて自己変革を遂げていくことは、NFTとDXのめざす方向性とシンクロしています。
蛻変の経営
日本では産業構造や雇用慣行、家族制度などに大きな変化が起こり、社会的蛻変の過程にあると考えられます。こうしたなか、企業は環境変化にあわせ、何度も脱皮を繰り返しながら成長していくことが求められています。
「蛻変」の比喩を生かした組織的蛻変の例として、建築・不動産の株式会社竹徳は、創業110周年を機に、社訓として「蛻変の経営」を掲げ、変化社会における企業の自己変革と経営革新に取り組んでいます。
博多織の岡野株式会社は構造的不況のなかで、呉服の製造・販売からネクタイやスカーフなどのアイテムやブランドビジネスに事業領域を拡大し、販売方法もECの活用をすすめる等、蛻変を進めています。
継続的なトランスフォーメーション
DXの推進にあたっては人々のライフスタイルや会社の組織に溶け込み、継続的な変容につなげていくことが大切だとストルターマン教授は述べています。まさに、生きものが脱皮を繰り返しながら成長し続けていく状況とオーバーラップしています。企業や社会は今、蛻変に取り組み、新たなイノベーションを起こしていかない限り、現在の地位を維持することすらおぼつかない状況にあります。その有力な方法がDXでありNFTであると言えます。
いかに蛻変を継続的に実施し常態化させていくかが重要です。そのためには、このNFTPark.などで蛻変に向けた変化の兆しを察知し、迅速な意志決定をすることや、企業の存続意義を再定義し、ステークホルダーと方向性を共有していくこと等が求められます。
まとめNFTの本質的意義は「フィジタル」と「DAO」にあり
DXは、情報技術だけでなく全ての繋がりを視野に入れ、美的体験の価値を中心におき、生活や組織に溶け込む継続的変容として捉える必要のある、息の長いプロセスです。
同様に、NFTもライフスタイルや組織に定着・実装されるためには、要素還元を超えた、統合・横断的な視点と方法が必要とされます。
そしてDXが「美的体験価値」を中心に置いているように、NFTにおいても「フィジタル」と「DAO」を中心的コンセプトに位置付けていくことが求められます。
<参考文献>
- エリック・ストルターマン「情報技術と豊かな生活」(2004年)
東京大学工学研究科都市工学専攻を修了の後、公益財団法人九州経済調査協会や九州大学において長年、地域調査や産業政策・地域政策の立案に従事するとともに、数多くのまちづくりに参画している。