NFTと金融商品取引法
NFTを取り扱う業務を行っていると、よくこのような質問を受けます。「NFTって金融商品にあたるのでは?」、「金融関係のライセンスが必要では?」。このような質問は、NFTを持っていると株主優待のような特典が受けられる、二次流通によって権利者を移転できる、つまりは株式のように扱われるのでは?といった疑問から生じるものかと思われます。
金融商品を取り巻く法制というのは非常に複雑かつ流動的です。ここでは、NFT関連のサービスと関係する点にスポットを当て、法的にNFTが金融商品に該当するかを概説していきます。
伝えたいことNFTが金融商品として扱われるかは、権利関係の設計次第。法的観点から慎重な検討が必要
NFTは直ちに金融商品に該当するものではない。もっとも流動的な法制との関係で慎重で専門的な検討は必要となる。
金融商品取引法における有価証券の定義
金融商品を規律する法律として金融商品取引法(以下「金商法」)というものがあります。金商法の適用対象は同法2条1項及び2項に定義規定にて定められています。1項では実際に紙の証券が発行されるもの(「1項有価証券」)、2項では実際に紙が発行されないもの(「2項有価証券」)が挙げられています。
1項有価証券はその流通性の高さから、これを取り扱う業者には厳しい登録要件と業規制が課せられます。1項よりは緩和されますが2項有価証券に該当する権利等を取り扱う業者も同様に登録と業規制が課せられます。
なお、よく「暗号資産」(過去には「仮想通貨」と呼ばれていた。)が金融商品に該当すると考える方もいます。しかし、暗号資産は資金決済に関する法律(以下「資金決済法」)により規律されており、金融商品ではなく決済手段と扱われています。後述する金融商品取引法上の「電子記録移転権利」に該当するものは、資金決済法2条5項ただし書において暗号資産に該当しないとされており、あるトークンが金融商品と暗号資産の両方に該当することはないと法的に交通整理がされています。
NFTの有価証券該当性(集団投資スキーム持分)
要件該当性
NFTの有価証券該当性については、2項有価証券のうち集団投資スキーム持分(金商法2条2項5号)と称される類型へ該当するかを検討する必要があります。
集団投資スキーム持分とは、「当該持分を有する者(出資者)から出資された金銭、有価証券、為替手形、約束手形、競走用馬1を充てて行う事業(出資対象事業)から生ずる収益の配当又は財産の分配を受けることができる権利」(参照:金融庁「ファンド関連ビジネスを行う方へ(登録・届出業務について))とされています。(本記事との関係では、適用除外については省略します。)
例えば、ある個人が事業者に対し金銭を出資し、事業者はリターンとしてNFTを発行します。そのNFTを保有している人(2次流通により保有している人も含むと解されます。)に対し、出資された金銭を充てて事業を行った収益をNFT保有者に分配する場合は、集団投資スキーム持分に該当しえます。
裏を返せば上記の要件からは、「出資」としての性格を有しない設計のNFTの売買やNFT保有者に対して事業に連動する形での「収益の分配又は財産の分配」をしない権利は、集団投資スキーム持分に該当しないこととなります。
ユーティリティトークンの集団投資スキーム持分該当性について
近時NFTとの関係で注目されているトークンの性質としてユーティリティトークンというものがあります。これは、特定のサービスの利用権、施設入場権、商品の優先購入権などを表章した実用性あるトークンを指します。このユーティリティトークンの性質を持つNFTが集団投資スキーム持分に該当するかについて、金融庁が回答をした興味深い事例があります(金融庁「新規事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」参照)
当該事例はオーナーNFTと称されるトークンを販売するプラットフォームにおいて販売されるNFTについてのものです。当該NFTは、提携する事業者が顧客に対し販売するもので、価格は10万円。当該オーナーNFTは有効期間が5年間であり、オーナーNFT保有者に対し5年間の内半年に1回農産物NFTと称されるトークン(有効期間3か月、提携事業者が提供する8千円相当の農産物と引き換えることができるもの。なお、災害等により8千円相当の農産物を発送できない場合には、返金対応あり。)を取得できること及び提携事業者のサイトによるEC割引や農業見学等ができる権利が特典として設定されたものです。このユーティリティトークンとしての性質を有するオーナーNFT及び農産物NFTが集団投資スキーム持分に該当するかが問題となりました。
これに対し、金融庁は、当該事例におけるNFTの性質は、特定の財産やサービスに対する対価の支払のように「出資」又は「拠出」と認められない行為によって金銭等の支払がなされたものであり、集団投資スキーム持分に該当しないと回答しました。
当該回答から考えらえることとしては、NFTの保有者に対し新たにNFTを付与したり、特典を与えることそのものが集団投資スキーム持分に該当するものではないということです。
もっとも、同回答にはNFTに表章される権利が単に財産又はサービスの利用権・受領権であっても、事業収益に連動するような設計をする場合には、「出資」又は「拠出」に該当し、集団投資スキーム持分に該当する可能性があることを指摘しています。
NFTが集団投資スキーム持分に該当した場合の業規制
では、発行されたNFTの権利関係が集団投資スキーム持分に該当した場合、どのような法的規制に服するのでしょうか。
現行の金商法令では、「電子記録移転有価証券表示権利等」(金商法29条の2第1項8号、金融商品取引業等に関する内閣府令1条4項17号)という概念が設けられています。「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金商法2条2項(同項各号に限定されない。)により有価証券とみなされる権利の内、「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合」に該当するものを指します。「電子記録移転有価証券表示権利等」を構成する概念として「電子記録移転権利」があります。これは、金商法2条2項各号に掲げるみなし有価証券のうち、「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合」に該当するものをさします。
2項有価証券に該当するものは、1項有価証券に比べ緩やかな業規制に服するところでしたが、「電子記録移転有価証券表示権利等」及び「電子記録移転権利」に該当する場合、2項有価証券に該当する権利であっても、1項有価証券として取り扱われ、より厳格な登録要件、開示規制に服することとなります。電子記録移転権利は、電子的方法を用いることから流通性が高まることを捉え、1項有価証券と同水準の規制に服させることとしたとされています。
NFTを用いた権利が集団投資スキーム持分に該当する場合、その権利はブロックチェーン上で発行されるトークンに表示される権利といえ、「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)」に当たります。そのため、「電子記録移転有価証券表示権利等」及び「電子記録移転権利」に該当し、1項有価証券としての開示規制・業規制に服することになります。
なお、セキュリティートークン(ST)と言われる性質をもつトークンは、「電子記録移転有価証券表示権利等」に該当します。以上の説明からは、NFTも権利の性質によってセキュリティートークンに分類される場合もあるということでしょう。
まとめNFTは金融商品にもなりうる
金商法上の集団投資スキーム持分の規律については、アメリカのHowey 基準という投資契約該当性判断の基準を参考にしたとされています(公益財団法人 日本証券経済研究所「有価証券の範囲」参照)。現在金商法上有価証券に該当しないNFTであっても、Howey基準に照らし合わせると投資契約に該当する(つまりは、金融商品に該当する可能性を含んでいる。)ものと考えられます。
金融商品の規律は、投資家が詐欺などの財産的犯罪・損害を被らないようにすることを趣旨の一つとしています。ユーティリティトークンの性質を有するNFTであっても詐欺などが横行すれば、規制は厳格になっていきます。NFTの金融商品該当性については、なおも慎重な検討が求められていくことでしょう。
参照
- 松尾直彦『金融商品取引法〔第6版〕』(商事法務、2021年)
- 黒沼悦郎『金融商品取引法〔第2版〕』(有斐閣、2020年)
弁護士。明治大学法学部卒、同大学法科大学院修了。都内法律事務所での勤務を経て、MikoSea株式会社にCLOとして参画。数多くの資格を保有し、幅広い知見を駆使し未開の法分野に日々挑戦している。